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石田 博/ISHIDA Hiroshi
Sommelier's Note~ソムリエのネタ帳

1969年東京出身。90年ホテルニューオータニ入社。尊敬する先輩に憧れ、ソムリエを志す。94年よりレストラン ラ・トゥール・ダルジャン配属、フランス伝統の料理とサービスを学び、ソムリエとしてのキャリアをスタート。2000年、第10回世界最優秀ソムリエコンクールでは第3位になるなど数々の賞を受賞し、日本でも屈指のソムリエとなる。04年ベージュ アラン・デュカス 東京へ移籍、2008年より同社総支配人就任。2011年2月よりレストラン アイ(神宮前)のシェフソムリエとして勤めるかたわら、ホテル日航東京(台場)、同豊橋(愛知)の顧問も務める。講演、執筆、コンサルティング、教育活動など幅広く活動する


日別アーカイブ: 2012年8月31日

デカンタージュ

「こちらの赤ワイン、デカンタージュをしてもよろしいでしょうか?」

「は?! あ、お願いします、、、」

ソムリエてのは、ホントいろいろ言ってくるよな。
どうやら、ワインをカラフェに移すことらしいけど、なんでやるのか分からないし… そういえばこの間、なんとかジャルダンていうレストランに連れていってもらったとき、テーブルの真横でソムリエが仰々しくやってたな、儀式なのか?

大きいグラスと一緒で、どうやらいいワインのときにやってるようだ。
美味しくなるなら、わざわざ聞いてこなくてもいいのに。シェフは、「仕上げに塩はふりますか?」なんて聞いてこないし。

で、なんでロウソクにかざしてんだろう。
やっぱり儀式なんだな。

◇     ◇      ◇

デカンタージュは、ワインのサービスにおいて、古今東西、喧々諤々の対象となっています。

瓶内に沈殿している赤ワインの澱を(熟成中、ワインに含まれるポリフェノールが結晶となったもの)取り除くため。
また、ワインに酸素をとりこむことにより、香りを開かせるため、とよくいわれています。

作業自体はいたってシンプルです。カラフェにワインをゆっくりと移すだけです。

ワインは昔、瓶で食卓に登ることはなく、樽からカラフェに移されてサーブされていました。
つまりデカンタージュの行為自体は元々はサーブの手段だったものが、発展、解釈を進化させたものといえます。

ではそのデカンタージュの効果ですが、

① 澱を取り除く。
一昔前までボルドーなどの色が濃く、渋みの強い赤ワインは澱がたくさんでたので、これが一番の目的でした。しかし、醸造技術が進み、あまり大きな澱は出なくなりました。
また以前は、「良質なワインは10年は熟成させないといけない」などといわれ、十分に寝かせてから楽しまれていましたので、澱がたくさん出ていました。現在では若いうちから飲まれることが圧倒的に増えたので、澱が出ているワインというのは随分減ったのです。

② 香りを開かせる。
ワインは若いうち、または強いワインは香りが閉じていることが多くあります。瓶詰めの際、添加される参加防止剤の影響もあったりします。
そのいわば「酸欠状態」をやわらげることにより、香りがより豊かなに感じられるのです。
現代のデカンタージュの最大の目的といえるでしょう。

③ 渋みがやわらぐ。
少し難しい話を。ワイン中で、タンニン(渋み成分)は、アルデヒドという成分と重合しています。そこに酸素が加わることで、溶解度が上がり、水分に溶けやすくなります。つまり、ワイン全体にタンニンが溶け込むことにより、ザラザラとした触感が、なめらかな印象へと変わるのです。

④ 味わいがふくよかな印象になる。
酸素が取り込まれることにより、ワイン自体の体積が増えます。実際にカラフェに移したワインを元の瓶に戻すと溢れてしまうほどです。つまり口に含んだワインはより膨らんだように感じられるのです。

⑤ ワインの状態が均一化される。
熟成が進んだワインは、瓶の上部と下部では状態が違っています。上部は僅かながらも酸素に触れているので、より熟成が進んでいます。下部はその逆です。6人ないし8人でそのワインを飲むと当然人によって違う状態のワインを飲むことになります。カラフェに移すことで、上部、中部、下部のワインがミックスされ、状態が均一になるのです。

最後に、②の香りの変化について、もう少し。
デカンタージュによって香りが開くといいましたが、直後は香りが少なくなることがあります。
そして時間とともに豊かな香りが上がり始めるのです。
ですから、デカンタージュをしたワインは少し時間をおくことがポイントです。30分から1時間、ものによってはそれ以上必要なことも。

ワインの一番の特徴は「香りが時間とともに変化する」なのですから、その変化してゆく様子を楽しまない手はありません。
二人で一本をゆっくり飲むのなら、デカンタージュはしないで、徐々に変わってゆくワインを楽しむのもよいものです。

 

 


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